かけがえのない、ぼく#第五章(完結)

おはなし

チュン、チュン……。

賑やかな鳥の声。

朝日が差し込む。

クリビー「(眩しい……。)」

マルナス助手が階段を昇って来る。

マルナス助手「オハヨウゴザイマース!」

クリビー「おはよう。」

マルナス助手「ドウデシタ?」

クリビー「見れましたよ、夢の続き。」

マルナス助手「それは、ヨカッタデス!」

クリビー「ありがとう。」

マルナス助手「どういたしマシテ!」

どんな夢だったとか、マルナス助手は一切聞いてこなかった。

この人は、本当に、他人に興味がない。

マルナス助手「朝ごはん、できてマスヨ!」

クリビー「やったー!」

クリビーは身支度をし、階段を下りた。

テーブルには、朝ごはんらしい、朝ごはんが並んでいた。

目玉焼き。

こんがり焼かれたトースト。

いちごジャムにバター。

ヨーグルト。

ナスビーJr.も寝室から眠そうに歩いてきた。

「いただきまーす!」

3人で声をそろえた。

マルナス助手「納豆食べまマス?味噌汁と白米もありマスヨ!」

クリビー「せっかくだから、全部いただこうかな!」

ナスビーJr.「納豆いらない!ごはんだけちょうだい!」

マルナス助手「はいはい。」

ナスビーJr.「ソースも取って!」

クリビー「ええ!?ソースごはん!?」

賑やかな食卓。

一人暮らしが長いクリビーは

久しぶりに小さな幸せを感じた

気がした。

ナスビーJr.「ねえ、今日はいっぱい遊ぼう!」

クリビー「ごめん、食べたらもう、行かなきゃなんだ。」

ナスビーJr.「えー。」

マルナス助手「残念デスネ~。またいつでも遊びに来てクダサイ!」

クリビー「ええ、必ず。」

ナスビーJr.「……。」

クリビーはナスビーJr.とマルナス助手に挨拶をし

研究所を後にした。

姿が見えなくなるまで、手を振るナスビーJr.。

ナスビーJr.「今度は、モモビーとネギーンも一緒に来てねー!」

クリビー「ああ!」

ほかの場所に立ちよる時間はなく

帰り道をまっすぐ進んだ。

電車に乗る。

窓の外

さわやかな景色が流れる。

ドッペルゲンガーの謎は解けた。

クリビー「(あれは、ぼくだった。)」

会えて、よかった。

きっと、子供の頃のぼくが

ぼくに会いに来てくれたのだ。

あの子がぼくを見て笑った理由

単純に

嬉しかったんだと思う。

クリビーも

窓の外を見つめるクリビーは

自然と明るい表情になっていた。

カラン。

あの涼しげな音を思い出す。

クリビー「(欲しかったのは……。)」

ラムネ瓶の中の

ガラス玉じゃない。

理由なんてなく。

何かと価値を比べることもなく。

世界中のどんなものより

たった一つ、これが欲しいと思えた。

あの心だったんだ。

なくしたわけじゃない。

見えなくなっただけ。

クリビーは目を閉じた。

(ぼくの下らなくて)

(平凡な人生は)

(誰も歩くことはできない。)

「かけがえのない、あなた」

先生が言っていた意味は。

「世界で一番すごい人になれ。」

ではなかった。

「誰より特別な人になれ。」

でもなかった。

「君の人生は、君しか生きられない。」

それだけで。

もう、かけがえがない。

青いガラス玉は

もう手に入れなくてもよかった。

あの日の自分が、ちゃんと心の中に戻ってきたから。

(先生。)

(あの時はわからなかったけど。)

(今なら分かります。)

(ぼくは、かけがえのないぼくでした。)

(ぼくと同じ人はいません。)

クリビーは駅を降りた。

大都会。

そして、人混みの向こうへ歩いていく。

……

クリビー「(はて?)」

クリビー「(どうしてナスビーJr.は)」

クリビー「(モモビーとネギーンの名前を知ってたんだろう?)」

クリビー「(最初に玄関で会ったとき)」

クリビー「(ぼくのことを知らないみたいだったのに。)」

まあいいや。

クリビーは少しだけ不思議に思っていた。

一方その頃

地元の町。

ナスビー博士の研究所。

マルナス助手「博士、どうして本当のことを言わなかったんデスカ?」

ナスビーJr.「わからん。」

博士と呼ばれる、ナスビーJr.。

ナスビーJr.「最後に、驚かそうと思ったんじゃが。」

子供の姿をした彼は、

若返り薬の失敗で若返りすぎてしまった

ナスビー博士だったのだ!

ナスビー博士「言うタイミングを逃してしまったわい。」

マルナス助手「そうデシタカ。」

ナスビー博士「せっかく子供になれたのに、あいつらは大人になってしもうた。」

マルナス助手「すれ違っちゃいマシタネ。」

マルナス助手は、さみしそうな博士の背中を見た。

その姿は

思い通りにならなくて、がっかりしている子供そのものだった。

ナスビー博士「いくら若返っても、過ごした時間は一度きり。思い出は取り戻せないんじゃな。」

マルナス助手「どうしたんデスカ!急にしおらしくなっちゃッテ!」

ナスビー博士「ワシらしくないな!」

マルナス助手「そうデスヨ!」

ナスビー博士「よーし!そうと来たら、思い出を数値化して、ポイントを貯めておける口座を発明しよう!」

マルナス助手「もう、博士ッタラ!」

マルナス助手は笑った。

マルナス助手「そういうのは、とっておけないからこそ、価値があるんじゃないデスカ!」

研究所はまた通常通り

意味のない発明を作り続けるナスビー博士と

それに付き合い続けるマルナス助手の声が響き渡り

賑やかになった。

―おしまい―

ブリッ!ブリッ!ブリッ!

え?

おはなしは

終わったんじゃないの?

ブリッ!ブリッ!ブリッ!

何の音?

ブリッ!ブリッ!ブリッ!

大音量で

鳴り続ける。

ブリッ!ブリッ!ブリッ!

緊急性の高い

アラート音と

バイブレーションが

同時にする

ような

強烈な音が鳴り響いていた。

ブリッ!ブリッ!ブリッ!

ナスビー博士「終了じゃーーーーー!」

クリビー「え?」

ナスビー博士「目が覚めたかね?」

8歳のクリビーは、ナスビー博士の研究所で目を覚ました。

クリビー「どういうこと?」

クリビーは2階の実験室の大きなソファーで横になっていた。

ゆっくりと上半身を起こす。

目の前にいるナスビー博士、いつも見る初老のおっさん。

ナスビー博士「忘れたのかね?」

その後ろでは

モモビー「次はおれっちの番だー!」

ネギーン「僕も僕もー!」

と、友達2人が騒いでいた。

まだ寝ぼけているクリビー。

ナスビー博士「どうじゃった?『大人になった未来の自分が体験できるマシーン』!」

クリビー「あー!」

クリビーは、ようやく状況を飲み込んだ。

ナスビー博士「どうじゃ?楽しかったじゃろ?」

クリビー「う~ん。」

ナスビー博士「大人は楽しいじゃろ?早く大人になりたいと思ったじゃろ?」

ナスビー博士はニヤニヤしていた。

クリビー「あのさ。」

ナスビー博士「なんじゃ?」

クリビー「もしかして、第一章から第五章って。」

ナスビー「その、もしかしてじゃ!」

クリビー「ガーン!」

クリビーの叫ぶ声が部屋中に響いた。

クリビー「また夢オチだー!」

その場にいた全員がズッコケたのだった。

チャンチャン。

―おしまい―