次の休みの日。
遅く起きた朝、だらだらと支度をして
昼過ぎの電車に乗った。
特急券や、指定席も予約せず
きちんとした計画はなく
地元に向かった。
鈍行で3時間ほどの距離だ。
電車はさほど混んでなく、快適だった。
ゆっくりと景色を楽しむ。
ごちゃごちゃした駅前を通り過ぎると
しばらくは住宅街。
また次の駅。
住宅街。
それを繰り返して
気がつくと
周囲は田畑ばかりになり
大きな川や山が見えるようになった。
そして、周囲に何もない
地元の最寄り駅に着く。
期待外れなほど、駅前はあまり変わっていなかった。
この辺りは穏やかに廃れる一方で
開発は進まないようだ。
クリビー「(ぼくが地元を離れて、十五年くらいか…。)」
それくらいじゃあまり変わらない。
実は、クリビーの両親は
父親の故郷である遠く離れた南西の島へ、クリビーが社会人となったのを機に、引っ越してしまったのだ。
十五年間、地元に戻らなかったのは
それが理由だ。
ここから30分ほど歩いて、地元町へ向かった。
クリビー「(着いた!)」
変わらない街並み。
木が多く、セミの声がうるさい。
時刻はもう16:00を過ぎていた。
まだ暑いが、都会とは違う、気持ちの良い暑さだ。
そう感じた。
クリビー「(たしか博士の研究所は……。)」
近くの実家にいる両親はさておき
先に、ナスビー博士の研究所を目指した。
やっぱり気まずい。
たしか博士と最後に会ったのは、
中学一年生くらいだったか。
あの頃
ネギーンは成績優秀で
別の中学校に行ってしまって
会えなくなってしまった。
というより
クリビーからすると
遠慮して関われなくなってしまった
という感じだ。
その後、中学まで一緒だったモモビーとも
自然に距離ができ
仲良し三人組は
自然消滅した。
そう考えると、少し寂しい。
その頃からナスビー博士とも
関わらなくなった。
クリビーは、どこへ行くにも
一人では、行けなかった。
ナスビー博士の研究所にも
近所の探検にも。
どこにも。
ぼくは、友達や周りをみて
全部を決めていた。
みんながそうするから、そうしたほうがいいのかなって
進路を決めて
今に至る。
気がつくと夢はなくなっていて
なんの自分軸もなく
生きてきたことを少し後悔している。
それから
変わらない日々
ただ同じような毎日が
続くだけ。
ただ生きているだけ。
つまらない男。
だけど、かわいい彼女は欲しいから
周りを見て、マネをする。
無害な男。
精一杯演じる、普通の人。
だけど面白さはないよね。
まだ彼女は知らない、本当のぼくを。
本当につまらない人生を歩んできた
何もない、ぼくを。
そんな人生を思い返した。
シュワシュワというセミの声と
夕日を背中に進む。
ナスビー博士はどう思っていたんだろう。
子供の頃、あんなにお世話になったのに
大人になって、不義理になったぼくたちを
残念に思っただろうか。
クリビー「(もし会えたら、一言でも、そのことを謝ろう。)」
気まずい。
でも
ナスビー博士ならきっと笑って許してくれる。
そんな甘えもあって
足は進む。
町の中心にある広い公園を横切って
住宅地を抜けて、何もない平原へ出た。
一本道。
道端に点々と建っていた一軒家がだんだん少なくなる。
クリビー「(あった!)」
道の先に、ポツンと見える、ナスの形をした奇妙な建造物。
研究所は昔と同じ場所にあった。
クリビーはどんどん近づいた。
近くまで来ると
少しだけ外の様子は変わっていた。
ガラクタらしきものが外に増えており
壁が錆びて、施設はオンボロに見えた。
クリビー「(押してみよう……。)」
ピンポ―ン
インターホンを押す。
モモビーったら、子供の頃
ピンポンポンポンピンポン
十回くらい連打してたっけ。
ピンポンダッシュ。
取り残されたネギーンだけが怒られて。
クスッ。
懐かしい。
今の子供はそんなイタズラするのかな。
心の中で、少しだけ可笑しくなった。
その瞬間
ガチャ…!
扉が開いた。
???「誰ですか?」
なんと
中から
ナスビー博士、でなく
ナスの男の子が出てきた!
小学生くらいの子かな?
クリビー「こんにちは、いや、こんばんわ!」
ナスの子「…誰ですか?」
クリビー「ぼく、クリビーです!昔、ナスビー博士にお世話になった者です。」
クリビーは続けて言った。
クリビー「ナスビー博士は、いらっしゃいますか?」
予想外の出来事に、心の中は驚いていた。
クリビー「(親戚の子かな…?ここに住んでるのかな?)」
ナスの子「父のことですか?父は、もう、ここには住んでいないのです。」
クリビー「え!もしかして、ナスビー博士の、息子さん!」
ナスの子「はい。」
クリビー「(えーーーーー!?)」
クリビーは、目の前のナスの子に感情を見せず、心の中で衝撃を受けた。
あの、ナスビー博士に、子供が生まれていたなんて。
あの人、ぜったいに結婚できないと思ってたのに……!
奥さん…どんな人なんだろう?
昔、近所の病院の美人な看護師さん、ナスミさんのことを追いかけ回してたけど、どうなったんだろう。
一瞬でぐるぐるとそんなことを考えた。
ナスの子「今はぼくがこの家に住んでるんです。よかったら、少し休んでいかれますか?」
クリビー「え!いいのかい、ありがとう。」
クリビーは部屋の中に案内された。
間取りは、昔と変わらない。
しかし、掃除が行き届いておらず、部屋の中はかなり物が増えていた。
クリビー「きみの名前は?」
ナスの子「ナスビー・ジュニアです。」
クリビー「おお!そのまま博士の名前を引き継いだんだね!」
ナスビーJr.「はい。優秀な父の名前をいただきました。」
クリビー「(優秀なね…。笑)そうなんだね!」
ナスビーJr.「クリビーさん、どうして今日は父に会いに?」
クリビー「実は、お父さんに相談したいことがあったんだ。」
クリビーは、小学生を前に、正直な自分の気持ちをわかりやすく伝えた。
クリビー「前に見た夢の続きを見られる発明なんて、ないかなと思って。」
クリビー「どうしても、見たい夢の続きがあるんだ。」
目の前にいるのは子供。
真剣な眼差し。
自分のバカな発想を言っても、真面目に聞いてくれるのだ。
クリビーはやさしい気持ちになる。
自分に対しても、やさしい気持ちに。
ナスビーJr.「へ~?どんな夢なの?」
クリビー「もう一人のぼくに会った夢なんだ。」
クリビー「ぼくはもう一度、ぼくに会いたい。」
ふざけないで、話した。
ナスビーJr.「ありますよ!父の発明で、そういう装置!」
クリビー「なんだって!?」
ナスビーJr.「僕、父のすべての発明品をここで預かっているんです。」
そう言ってナスビーJr.は部屋の奥の方にある、倉庫の方へピョンピョン嬉しそうに飛んで行った。
クリビーは後ろをついていく。
クリビー「マルナス助手って、もうここにはいないのかな?」
ナスビーJr.に尋ねた。
そのとき、
ガチャ。
玄関から、マルナス助手の声がした。
マルナス「博士~!戻りマシタ!」
ナスビーJr.「マルナスっ!」
ナスビーJr.は焦った顔で玄関の方へ走って戻った。
クリビー「(マルナスさんも、まだここに!)」
クリビーは嬉しくなった。
マルナス「え!クリビーが!」
玄関の方から驚いた声がする。
ナスビ―Jr.がマルナス助手の手を引いて連れてくる。
クリビー「マルナスさん!お久しぶりです!」
マルナス「おお!本当に、クリビー!久しぶりじゃないデスカ!」
クリビー「勝手におじゃましちゃって、すみません!」
マルナス「いいんデスヨ!子供の頃と同じように、好き勝手して構わないデスヨ!」
クリビーも、マルナス助手も、再会して一瞬で打ち解けた。
思いのほか、マルナス助手は昔と印象があまり変わっていなかった。
まるで、時が戻ったような感じだった。
ナスビ―Jr.「マルナス、『夢の続き見れるマシーン』どこにあったかな?」
マルナス「『夢の続き見れるマシーン』デスカ?またそんなの引っ張り出してどうするんデス?」
ガラクタを引っ張り出し、部屋を散らかそうとする、それを止めるマルナス助手。
相変らずの光景に見えた。
ナスビ―Jr.はマルナス助手に事情を説明した。
マルナス「そうデシタカ…!それなら、今晩、ここに泊っていきマス?」
明日の午後までに戻らなければならないが…
クリビーは考えたが
ナスビーJr.とマルナス助手の歓迎ぶりが背中を押した。
マルナス「では今夜『夢の続き見れるマシーン』を使って寝るといいデス!」
クリビー「ありがとう!」
マルナス「夕飯はこれからデスカ?出前でも取りまショウカ?」
マルナスはまるでお母さんのようにクリビーとナスビーJr.を気遣ってくれた。
これもかつてあった光景
そのままだ。
クリビーはシャワーを借り、汗を流した。
出前が届くと、3人で食事をした。
クリビー「え、あの、きみのお母さんはどんな人なの?」
一番気になっていることをナスビーJr.に聞いた。
ナスビーJr.「ひみつ!」
クリビー「参ったな。」
マルナス「……。」
クリビー「マルナスさん、元気でしたか?」
マルナス「ええ!元気デシタヨ!」
ナスビーJr.「この餃子うまい!」
クリビー「ほんとだね!」
マルナス「最近できた中華店なんデスヨ!」
クリビー「そうなんですね!」
マルナス助手からは、合わない間、何をしてたとか、どうだったとか
全然聞かれなかった。
この人は親切だが、根本的にあまり人に興味がない。
ナスビーJr.は目の前の料理に夢中だった。
お酒でも飲んで、積もる話を…
それはなく
温かい食事の時間は終わった。
さて
願った夢の続きが見られるという
『夢の続き見れるマシーン』を使うときが来た。
空いている寝室は、なく
3階建ての建物の3階にある
広々とした休憩室に
布団を持ってきてもらうことになった。
クリビー「枕みたいな形をしてるね。」
マルナス「そうなんデス。これを枕みたいに敷いて寝るだけデス。」
クリビー「スイッチは?」
マルナス「睡眠の脳はを感知して自動で起動して、勝手に切れマス。」
クリビー「楽しみだな。」
ナスビーJr.「よい夢を!」
クリビー「うん、じゃあ、おやすみ~。」
こうして、クリビーは眠りについた。
つづく
