楽しい時間はどんどん過ぎ、夜になりました。
クリビー「最後は花火しよう!」
子どもたちは手持ち花火を手にしました。
夜のキャンプ場。
湖は真っ黒な鏡のようで、空には星がたくさん浮かんで見えました。
シュッ。
パチパチパチッ。
トマ子「きれい!」
長ネギ子ははしゃいで花火を高く掲げます。
長ネギ子「見て!星みたいでしょ!」
ネギーン「みなさん!危ないから、ちゃんと前を見てくださいね。」
ネギーンが注意する。
モモビーは何本もの花火を見比べている。
モモビー「おれっちは激しいのがやりたいな!」
クリビー「ロケット花火、やっちゃおうか?」
ネギーン「ダメですよ!ここはロケット花火は禁止です!」
モモビー「チェッ!つまんね~!」
クリビー「じゃあ、ドラゴンのをやろうよ!」
モモビー「おっ!これでけえな!面白そう!」
男子たち三人はドラゴンのデザインをした置き型の花火に火をつけました。
噴水のように、色鮮やかな火薬の火花が散ります。
モモビー「これかっけー!」
マロン「きれいです・・・。」
マルナス助手は変わらずしっかりと子供たちを見守っていました。
男の子も、女の子も、一緒に楽しめました。
大盛り上がりです。
そんな子どもたちから少し離れたところで――。
ナスビー博士とナスミさんは、一人一本の線香花火を持っていました。
ナスミ「線香花火、懐かしいですね。」
ナスビー「そうですね!久しぶりです。」
二人は並んで座っていました。
ナスビー博士が、両方の火薬に、火をつけます。
ぽっ。
小さな赤い玉が生まれ
しばらくすると、そこから細い光が伸び
ぱち……。
ぱちぱち……。
小さな光が、夜の中で静かに弾けました。
湖面にも、その光がほんの少しだけ映っていました。
ナスミ「きれいですね。」
ナスビー「……ああ。」
ナスビー博士はナスミさんを前にして
またいつもの調子でカッコつけはじめました。
ナスビー「こういうのも、悪くないな。」
ナスミ「キャンプが、ですか?」
ナスビー「……いや。」
ナスミ「?」
ナスミ「線香花火ですよ。」
ナスビー博士は少しだけ照れながら言いました。
ナスビー「哀愁があっていいじゃないですか。」
ナスミ「そうですね。線香花火って、静かで、どこか果かないですよね。」
ナスミはやさしくフォローをしました。
線香花火の光が、二人の横顔をほんのり照らしています。
やがて風が吹き
小さな火の玉が揺れ
ナスビー「……落ちるなよ!」
博士が思わずつぶやきました。
ナスミ「博士、真剣ですね。」
ナスビー「これは集中力が必要なんだ!」
ナスミ「ふふっ。」
ナスミさんが笑いました。
その瞬間――。
???「おいっ!」
遠くから怒鳴り声が飛んできました。
二人が振り返ると
キャンプ場の管理人「夜なのに、いつまで騒いでるんだ!」
キャンプ場のおじさんがいました。
マルナス「す、すみません!」
マルナス助手が飛んできて、頭を下げました。
キャンプ場の管理人「花火は静かにやってくれ!周りには寝てる人もいるんだから!」
マルナス「ハイ……。」
キャンプ場の管理人「それから火の後始末も。」
マルナス「ハイ、ワカリマシタ……。」
子どもたちは一斉にしょんぼりしてしまいました。
さっきまでの楽しい雰囲気が、一瞬で消えてしまいました。
ナスビー「……。」
ナスビー博士が手元の線香花火を見ると
火はすでに消えていました。
ナスミ「……終わっちゃいましたね。」
ナスミさんは少し残念そうに言いました。
ナスビー「……ああ。」
ナスビー博士はまたちょっとかっこつけて、苦笑しました。
ナスビー「まあ、こういうこともある。」
子どもたちは、黙って花火を片付け始めていました。
マルナス「おじさんの、大事な商売のキャンプ場デスカラネ。仕方ないデスヨ。」
クリビー「だからって、怒鳴らなくても・・・。」
クリビーは悲しい気持ちになっていました。
花火がダメになったことより、怒られたのが嫌だったようです。
マルナス「あれくらい怒らないと、きっと、無視してやり続ける人もいるんデスヨ。」
クリビー「そうなのかなあ。」
マルナス「おじさんがキャンプ場を我が子のように大事に思う気持ち、わかってあげまショウ。」
ネギーン「まあ、少しでも楽しめたから、よかったです!」
モモビー「そうだな!また今度別の場所でもやろーぜ、花火!」
トマ子「そのときは私たちも誘ってね!」
長ネギ子「絶対よ!」
モモビー「わ、わかってるぜ!」
クリビー「またやろう!みんなで、必ず!」
子供たちの小さな笑い声が聞こえました。
悲しいモードは終了です。
そのとき。
湖の向こうから――。
パシャ。
小さな水音が聞こえました。
みんなが振り返りますが
一同「……?」
暗い湖には何も見えません。
月明かりだけが、水面に細長く伸びていました。
・・・
こうして
キャンプは終わりました。
ナスビー博士も、何事もなかったかのように、いつもの日常を取り戻しました。
「なぜ落ち込んでいたのか?」
「なぜ何日も部屋から出なかったのか?」
その後、誰も理由を聞くことはありませんでした。
そんなこともあるよね。
だって、やさいなんだから。
そして、数日後。
クリビーたちは、学校にいました。
夏休みが終わり、いよいよ宿題を提出する日です。
クリビー「できたー!」
モモビー「おれっちたちの超大作!」
ネギーン「最後まで、しっかりまとめましたよ。」
三人が先生に提出したのは、一冊のレポートでした。
タイトルは――。
『落ち込んだ人を元気にする方法』
最初のページには、こう書かれていました。
① 落ち込むことは、誰にでもある。
② 無理に理由を聞かない。
③ その人が好きなことや、楽しいことを一緒にやってみる。
④ 困ったときは、友達や家族など、信頼できる人に相談する。
⑤ それでもつらいときは、大人や専門家に相談する。
そして最後には、三人が実際にやったことが書かれていました。
ナスビー博士が落ち込んでいた。
理由は、聞かなかった。
無理に聞き出すこともしなかった。
ただ、いつものように博士のそばに行った。
そして、みんなで楽しいことを計画した。
その結果――。
ナスビー博士は、元気になった。
クリビー「これなら、超大作って言っていいよね?」
モモビー「いいだろ!」
ネギーン「はい。三人で頑張りましたからね。」
クリビー「ネギーンが言うなら、大丈夫って自信持てるね!」
モモビー「これで算数ドリルも、読書感想文も、自由研究も――」
三人「全部、免除ー!」
三人は叫びました。
クリビーたちの学年担当の、マーメ先生とダイコーン先生は、レポートを読んで関心しました。
マーメ先生「これは立派な超大作ですね。」
クリビー「やったー!」
モモビー「作戦、大成功!」
ネギーン「キャンプも楽しかったですしね。」
クリビーは、夏休みを思い出しました。
海。
ドライブ。
湖。
キャンプ。
自然。
女の子。
星。
花火。
そして、元気になったナスビー博士。
クリビー「……楽しかったなあ。」
モモビー「またキャンプ行こうぜ!」
ネギーン「次は宿題を早めに終わらせてから行きましょうね。」
クリビー「……。」
モモビー「……。」
二人は顔を見合わせました。
クリビー「それは……来年考えよう。」
モモビー「そうだな!」
ネギーン「もう!」
三人は笑いました。
こうして、クリビーたちの長い夏は終わりました。
そして――。
アオアオ湖の水面の下では、
今日も何かが、
静かに泳いでいるのでした。
これで湖畔のキャンプ場のおはなしは
おしまい
