【第36話】自分に合った友達#7

おはなし

引き続き、ネギーンの仮想空間での体験をお送りいたします・・・。

30歳になったネギーンは、相変らず真面目で、勉強熱心な性格のままでした。

ネギーンは法律関係の難しい仕事をしていましたが、客への親切な態度で評判がよく、誰からも認められるような立派な社会人となっていました。

しかし、小学校、中学校、高校、大学・・・と進学してきたネギーンの人生の中、いまだに『自分に合った友達』と出会えずにいました。

そして現在は、仕事が忙しいこともあり、友達と遊んでいる時間はあまりありませんでした。毎日会うのは会社の人間かお客さんばかり。大人になると、学校のようにたくさんの生徒たちが集まる場所はなくなります。特に、何かの集団に参加しない限り、新しい友達と出会える環境にはなかなか恵まれなくなってしまいました。

さて、今日ネギーンは珍しくいつもより早く仕事が終わったようです。

帰る支度をして、ササッと会社を出ます。

これからどこへ向かうのでしょう?

・・・

一方、その頃、(まだあと少し、仮想空間でのおはなしが続きますよ・・・)

クリビーとモモビーも30歳になっていました。この2人は一体何をしているのでしょうか?

ちょっと、覗いてみましょう。

モモビー「はぁ~・・・。もう、やってられないぜ・・・。」

あら・・・?

ここは地元の町にある居酒屋です。クリビーたちが子供の頃から長く住んでいる地元の町です。

ネギーンはもう十年以上前に、仕事を理由に、地元から遠く離れた都会へと引っ越してしまいましたが、クリビーとモモビーは、変わらず地元に住んでいました。

それにしても、今日のクリビーとモモビー、夕方から2人でお酒を飲んでいるようですが、その表情はあまり明るくありません。

一体、何があったのでしょう?

モモビー「もう、このことはあきらめるしかないか・・・。」

クリビー「ごめん、何も力になれなくて・・・。」

モモビー「全然いいさ!というか、クリビーの方も大変なんだしさ・・・。まっ、とりあえず酒飲んで、もうこのことは忘れようぜ!」

ええと、事情はこうです。

モモビーは大工さんの仕事をしています、でも、お金の計算が苦手で、困っています。

先月、100万ベジカで家を作って欲しいと頼まれて、モモビーはお客さんに家を作ってあげました。しかし、家を作るための材料のお金が101万ベジカもかかってしまいました。つまり、モモビーは1万ベジカを損してしまった上、タダ働きになってしまったのです・・・。

モモビーはそのことをクリビーに相談していました。

モモビー「はあ・・・子供のとき、ちゃんと算数の勉強をしておけばよかった・・・。」

酒を飲んで忘れよう!と言ったモモビーでしたが、しばらくすると、また暗い表情になって、またタダ働きのことを繰り返し話題にするモモビー。

クリビー「(忘れようって言ってたのに、まだ気にしてる・・・。)まあまあ・・・。僕も、算数をちゃんと勉強しておけばよかったよ。そしたらモモビーがこんなことになる前にアドバイスできたのに・・・。」

モモビー「クリビーのせいじゃないさ・・・。それで?クリビーの方はどうすんだ?今の仕事、やめるの?続けるの?」

クリビー「やめたいけど、やめたら次にどんな仕事が向いてるかわからなくて・・・。」

モモビー「たしかになあ・・・。」

ええと、クリビーの方の事情はこうです。

子供の頃からお菓子が大好きだったクリビーは、お菓子の会社に勤めるサラリーマンになりました。しかし、新商品のお菓子をスーパーに置いてもらうため、スーパーを経営してる会社の本部に売り込みに行ったのですが、断られてしまいました。あきらめず、他のスーパーにも売り込みに訪問しましたが、ずっと断られてばかりです。して、クリビーはお菓子の会社の上司から『来月、1件も売り込みが成功しなかったら、クビだ!』と言われています。

モモビー「今の時代ってさ、そういうことでクビにするってOKなの?」

クリビー「僕はそういう契約で雇われてるから・・・。」

モモビー「でも、なんで断られてばかりなんだろな?クリビーってお菓子好きだし、お菓子の良いところアピールできるだろ?」

クリビー「僕もそう思ってこの仕事をしたいと思ったんだけど・・・。なんか、スーパーに何個おいてくれたら何パーセント割引するとか、計算があるんだけど、その説明ができなくて・・・僕も算数苦手で困ってるんだ・・・。」

モモビー「おれっちと同じだな!」

クリビー「そうだね・・・。」

モモビー「あーあ、昔さ、ネギーンって頭のいい子、いたよな!こういうとき、アイツと友達でいればよかったって思うよな。アイツ、物知りだったし、親切でやさしかったし。おれっちたちが困ってたら『それはですね~!』とか言って、難しいことも簡単に解決してくれそうだ・・・。」

クリビー「そうだけど・・・ネギーンはたしか、9歳のとき、急に『僕は、もっと《自分に合った友達》を探すことにしました!』って言い出して、僕たちと遊ばなくなったじゃない?」

モモビー「そんなことあったっけ・・・?あんま覚えてないけど、、、昔は毎日一緒に遊んでて、仲良かったのになあ・・・。気づいたらもう全然会わなくなっちまったよな。今思うと、おれっちの人生で、ネギーンみたいに勉強できる友達は他にいなかったな~。」

クリビー「ネギーンは多分もう僕たちのことを友達とは思ってないと思うよ。ネギーンは頭がいいから、もっと頭のいい友達が欲しかったんだよ。僕たちみたいな『バカ』と付き合ってても楽しくなかったんだ・・・。」

モモビー「おいおい、『僕たち』って、おれっちも『バカ』に入るのか!はははっ!」

クリビー「はははっ!」

クリビーとモモビーは2人とも今、仕事が上手くいっていなく、バカらしい気持ちになっていました。居酒屋の中で2人の悲しい笑い声が響きます。

モモビー「でも、なんだか淋しいよなぁ~。世の中、勉強できる奴と、勉強できない奴ってのは友達にはなれないのか・・・。」

クリビー「・・・『バカ』には『バカ』な友達が合ってるのさ。そのことが僕たち3人を見てたら証明されるね。」

モモビー「おいおい、ちょっと言い過ぎだぞクリビー!そんな卑屈(ひくつ)になるなよ!」

クリビー「僕だって言うときは言うさーっ!オエッ!ゲロゲロゲロ!」

モモビー「わっ!クリビー!!!飲みすぎたんだ~!ダイジョブかっ!?」

・・・

さて、また所変わって、ネギーンの方はどうしたのでしょうか?

珍しく、仕事が早く終わったネギーン。足早に会社を出た、その行先は・・・?

なんと、自分の家でした。

そもそも、ネギーンはいつも仕事が終わると、寄り道もせず、真っすぐに自宅に帰っていました。

それは、仕事が早く終わっても同じでした。

ネギーンはもともと社交的な性格ではなかったため、1人でゆっくり過ごすのが好きでした。

行動派でもなかったため、色々な場所に出かけるより、家でじっとしている方が好きでした。

最近は家に帰ったら映画を見ることが癒しの時間になっていました。

特に、ここのところは、子供の頃に見た昔の映画を何度も見返すことが一番の楽しみになっていました。

ネギーン「(はあ~・・・今日も仕事で疲れました・・・。でも、やっぱりこの映画を見ると、元気が出ます!)」

ネギーンは自宅のモニターで『名探偵ナン VS. 大泥棒ナン』というアニメ映画を見返していました。

そうです、この作品は、ネギーンが9歳のとき、クリビーとモモビーに無理やり付き合って一緒に見た映画でした。

ネギーン「(あの2人がいなければ僕は一生この映画を見たいとは思わなかったでしょう・・・。)」

ネギーンはこの映画を見ながら、懐かしい気持ちに浸っていました。

(最初、見たときは全く面白く思えなかったですけど・・・)

(気づいたら、何度も見ていて、僕にとって特別な作品に思えてきます・・・もう、すべてのキャラクターの、セリフのタイミングまで、すっかり覚えてしまいました・・・。)

(友達も、そんなものだったのかもしれない・・・。)

(最初会ったときは、この子、僕とは合わないな・・・と思ったりもしたけど。)

(何年も友達でいたら、いつしか僕にとって特別な存在になっている。)

(僕がこう言ったら、彼はなんと言うか・・・もう彼のセリフまで想像がつく。そんな友達が、今、僕には、いない・・・。)

(ああ、僕は『自分に合った友達』という都合のいい存在に囚われて、初めから『自分に合った友達』を選ぼうとし過ぎたのかもしれない。)

(僕にとっての『自分に合った友達』は、僕みたいに勉強が好きで、僕と趣味が合って、僕みたいにやさしくて、僕みたいに僕に合わせてくれる、その上、僕より何でも少し進んでて、僕の先生みたいに尊敬できる存在で・・・それって、僕の思い通りになる理想のロボットみたいじゃない?)

(そんな『自分に合った友達』を探してばかりいた・・・)

(だから・・・今もこうして1人ぼっちでいることになってしまったんだろう。)

ネギーン「(僕を映画館に誘ってくれた2人は今もどこかで元気にしているかな・・・?)」

(ずっと友達でいればよかった・・・。)

みんなはどう考えているのかな・・・?

ネギーン「グスン、グスン・・・・。」

・・・

気がつくと、ネギーンは涙を流して泣いていました。

マルナス「わっ!ネギーン君!!!ダイジョブデスカーッ!!!?」

ネギーンはマルナス助手の、高くて大きな声で目が覚めました。

はい、やっと、仮想空間から戻ってきました。

ネギーンは例の『AI未来予想VR』装置を頭から外した状態で、腕の中に抱えていました。

ネギーン「グスン、グスン・・・大丈夫ですぅ・・・。」

マルナス「ごめんネ!!!何か、とっても怖い未来の映像だったのかナ!?」

ネギーン「いえ・・・。怖い映像ではなかったです。でも、なんだかすごく悲しくなってしまいました・・・。」

マルナス「あららら・・・そうだったんデスネ!悲しい体験をさせてしまって申し訳ないデス・・・。とりあえず、3階の休憩室で、しばらくゆっくり休んで下サーイ!」

つづく