【第35話】自分に合った友達#6

おはなし

ネギーンの7年後の未来、仮想空間でのお話が続きます・・・。

パプリリカさんに声をかけるも、体育の授業に遅れることが心配でソワソワし始めたネギーンですが、こんなとき『クリビー』だったらどうするだろう?そう自分に問いかけました。

ネギーンの思い出の中の『クリビー』は、特にこれといった特技はないけれど、他人に思いやりがあって、勇気のある子でした。

もし目の前に困っている人がいたら、『クリビー』なら必ず・・・

ネギーン「僕でよかったら、友達になりましょう。」

パプリリカ「え・・・?」

ネギーン「僕は男子だから、ダンスのグループは一緒に組めないけど・・・。毎日この教室に来て、誰とも話せないのは辛いですよね。だから、僕と、友達になりましょう。」

女の子と話すのなんて、とてもとても苦手なネギーンでしたが、思い切って、そう伝えました。

パプリリカ「ネギーンくん・・・、ありがとう。嬉しいわ。」

この世界で『友達になろう』と言って友達になることは、ほとんどありません。

日頃あまり使うことのない、少しだけ聞き恥ずかしい言葉を伝えたネギーン。パプリリカさんは一瞬、とても驚いた表情をしましたが、ネギーンの澄んだ瞳の色を見て、ほのかに笑顔を見せてくれました。

ネギーン「ち、ちなみに、今、何を読んでいたんですか?」

女の子相手に、やはり気恥ずかしくなってネギーンはとっさに別の話題を振りました。

パプリリカ「この本?・・・『ドストライクスギー』(作家)の『ミットバット』だけど・・・。」

ネギーン「『ドストライクスギー』好きなんですか!?僕も好きで、たくさん読みました!ちなみに、『空振り損の兄弟』は読みましたか?」

パプリリカ「いえ、まだ読んでいないわ。・・・というか、ネギーンくん、体育の授業がもう始まっちゃうわ!私は大丈夫だから、急いで、行って!」

ネギーン「あ、はい!ありがとうございます!・・・で、では明日、家から『空振り損の兄弟』を持ってきますね!ぜ、ぜひ君にも、よ、読んで欲しいです!」

パプリリカ「ありがとうね、ネギーンくん。私のせいで、授業遅れさせちゃってごめんね・・・。」

ネギーン「いえ、少しくらい遅れても大丈夫ですから!・・・ではまた!」

こうして、ネギーンは教室を出てゆきました。

・・・

その後、その日の授業も休憩時間も、何事も問題がなかったかのように進み、下校時刻となりました。

ネギーンはパプリリカさんに友達になろうと言ったものの、クラスのみんなが大勢いる中ではクロマメオ達のグループにかたまり、パプリリカさんに気遣うことは何もできませんでした。

ネギーン「(さすがに、みんなの前で女の子に話しかける勇気が出ないです・・・。)」

ネギーンはモヤモヤしていました。

が、気がつくとパプリリカさんの方もネギーンに声をかけることもなく、足早に帰ってしまっていました。

彼女がこの教室を1秒でも早く離れたい気持ちが、ネギーンには痛いほどわかりました・・・。

そして次の日・・・

パプリリカさんは学校に来ませんでした。

そして次の次の日も。

パプリリカさんの席はずっと空いたままになりました。

それから、ネギーンが高校を卒業するまで、パプリリカさんは学校に来ませんでした。

したがって、ネギーンとパプリリカさんの会話は、あの日が最初で最後となってしまいました。

実はこんなこともありました。

パプリリカさんが学校に来なくなって2週間が経ったときのこと、

ネギーン「パプリリカさん、もう2週間もお休みだけど、大丈夫なんでしょうか・・・?」

クロマメオ「え、ネギってパプリリカさん『推し』だったワケ?w」

クロマメオは、『推し』=『好き』という意味で、ネギーンを少しからかってそう言いました。

ネギーン「ち、違いますよ!普通に心配で・・・。」

クロマメオ「もしかして、ネギ、パプリリカに話しかけられたことある?」

ネギーン「・・・僕から話しかけたことがあります。」

クロマメオ「マジかよw ネギちゃん、積極的じゃ!で、大丈夫だった?被害に遭わなかった?w」

ネギーン「被害?何の、被害ですか?」

クロマメオ「ネギみたいなモテない真面目な男はああいう女に狙われるから気をつけないと!お金貸して~wご飯おごって~w欲しいもの買ってぇ~w」

スモモビー「パプリリカ言いそうw」

メロ太「てかネギ、あんな『ケバい』(=化粧が濃くて、品がない)女が好きなんだ!」

スモモビー「典型的な非モテ男ってかんじw」

クロマメオ「にしても、何も被害がなくてよかったな!ネギちゃんみたいのはああいう派手な女に近づかない方がいいぜ!」

ネギーン「・・・。」

そもそも友達として信用できないクロマメオ達にパプリリカさんの名前を出したことが間違いでした。

化粧が濃くて派手な見た目のパプリリカさんは、男子生徒から警戒されていたようです。

ネギーン「(僕は正直パプリリカさんが本当はどんな子なのかよく知らないけど、見た目だけでどうしてそこまで悪く言うんだろう・・・。)」

ネギーンはクロマメオ達のパプリリカさんに対する『偏見』=(偏ったものの見方)にガッカリしました。

こうしてネギーンはパプリリカさんの話をクラスメイトに相談することができなくなってしまいました。

ネギーンは自分の力不足を感じました。

そして、目に見えない大きな男女の壁も感じました。

こんなとき僕がトマオだったら・・・トマオは女の子と緊張しないで普通に話せて、警戒もされないで、すごい少年だったな・・・。

それに、モモビー。モモビーはこんなとき黙ってないで、クロマメオにだって堂々と意見を言い返してただろうな・・・。

そんなことも少し思いました。

勉強が得意な子が集まった進学校。それはネギーンにとって『自分に合った友達』がたくさん見つかる夢のような環境だと思っていました。

しかし、いくら頭がよくでも、勉強ができても、友達を大切にできるかは別の問題でした。

ネギーンは勉強が得意で真面目だから、自分と同じような人が、会話のレベルも合うし、難しいことも相談できるし、一緒に遊んでも楽しいんだと思い込んでいたのでした。

結局、高校3年間、ネギーンは『自分に合った友達』には出会えませんでした。ただ学校にいる時間をやり過ごすための上辺だけの友達をかわしながら、ひたすら勉強や自分の好きなことを学ぶことに集中して過ごしました。

そんな高校時代の経験があり、ネギーンは勉強以外のこともたくさん学び成長しながら大人になってゆきました。

・・・

それから、更に14年の時が過ぎ、ネギーンは30歳になっていました。

どうやらネギーンは法律関係の仕事をしていました。

ネギーンは法律のことをよく勉強して、トラブルに巻き込まれて困った人、弱い立場の人を守るための仕事をたくさん引き受けていました。

ネギーンは自分が生まれ育った町から離れ、大都会のオフィスで、高層ビルに囲まれた環境で、勤務をしていました。

同じ30歳の社会人の中では、お給料も良く、生活には困らない、豊かな暮らしをしていました。

ただ、仕事が忙しすぎて、子供の頃のように楽しく遊べる時間はありませんでした。

そして、驚いたことに、ネギーンは未だに『自分に合った友達』に出会えずにいたのです。

つづく