季節は、秋から冬へと変わろうとしていました。
それは、12月の初めのこと・・・
マルナス「トーガン社長!このたびは、このような、名もない研究所にご用命いただき、誠にアリガトウゴザイマス!」
珍しく、今日はナスビー博士の研究所に来客がありました。なにやら、マルナス助手の嬉しそうな声が聞こえます。
研究所のすぐ外には『トナカイが引くソリに乗った、サンタクロースのロボット』がたくさん置かれていました。その数なんと、100体!
その100体のサンタロボを前に、ナスビー博士とマルナス助手は2人のお客様と話をしています。
客として来ていたのは『クリスマス社』の社長である、冬瓜(とうがん)のトーガン社長でした。トーガン社長は、赤いチェック柄のツイード生地の厚手のジャケットを着ており、おしゃれで、かつ品格のある老人でした。
トーガン社長の後ろには、若い、きっちりした雰囲気の、カリフラワーの男性が立っていました。このカリフラワーの男性は、トーガン社長の秘書のようです。
トーガン社長はマルナス助手と両手で握手をしながら言いました。
トーガン「いやはや、こちらこそですぞ、マルナス殿。お2人の協力があって、我が社は今年、去年より更に素晴らしいクリスマスを迎えられそうです。」
マルナス「おお!なんと、ありがたいお言葉!心より感謝申し上げマス!!!」
マルナス助手はトーガン社長を目の前にして、とてもかしこまった言葉遣いをしていました。
一方、ナスビー博士はヘラヘラと嬉しそうな顔をして、なんだか落ち着かない様子です。マルナス助手の後ろで、体をゆらしたり、モジモジしたりしていました。
・・・
『クリスマス社』とは、毎年、クリスマスのイベントに命をかけている、やさいせいで超有名な、評判のよい会社です。
毎年クリスマスの時期になると、クリスマスの装飾を請け負ったり(うけおったり)、クリスマスのイベントを開催したり、とにかくクリスマスを盛り上げることを使命としている会社なのです。
実は、少し前に、その『クリスマス社』が開催する『クリスマスのための新しいアイディアコンテスト』というのがありました。マルナス助手は、そのコンテストに『空飛ぶサンタロボ』のアイディアを応募していたのです。たくさんの応募があった中、なんと『空飛ぶサンタロボ』のアイディアが採用され、なんとトーガン社長から直々に『ぜひ実物を作って欲しい!』という依頼が入ったのです。
今日は、依頼を受けて製作したサンタロボがすべて完成し、揃った日でした。
トーガン社長は、この100体ものサンタロボをクリスマスイブの夜空に飛ばして、多くの子供たちを喜ばせたいと考えたようです。
ナスビー「いや〜、クリスマス社だったら、お金もあるんだし、このA案の激安プランじゃなくて、B案のデラックスプランの方を選んでくれると思ったんですけどねぇ・・・。そこがちょっと残念でしたが、来年また利益が出たら、税金対策にでも、ぜひB案の方をお願いしますよぉ〜。」
マルナス「ハカセは黙っテーッ!!!」

高い代金と引き換えに、このような依頼をしてくれたトーガン社長。そんな大切なお客様を目の前に、ナスビー博士は思いもよらない失礼なことを言いました。
すかさず、マルナス助手がナスビー博士に向かってドロップキックを入れます。
マルナス「もう!それに、A案は激安プランじゃなくて、スタンダードプランでショ!!!スミマセン、スミマセン、『ナスビー』の言うことは気にしないで下サイ!」
マルナス助手は慌ててトーガン社長に謝りますが・・・。
ナスビー「あ!マルナス!私を呼び捨てにするとは!!!いつから私より偉くなったんだ!!!」
マルナス「嗚呼もうっ!ビジネスでは、お客様に対して自分の会社の上司の名前を言うとき、敬称(◯◯社長とか◯◯さんとか)を付けないノーーー!!!」
トーガン「フォッフォッフォ。いやはや、さすが、ナスビー殿は天才発明家でいらっしゃるだけに、無邪気で素直なお方なのですな。それに、お2人も息が合っていて・・・きっと、そのお2人の仲の良さも、一流の発明品を生み出すのに大切な環境なのかもしれませんな。」
トーガン社長は心が広い人物だったので、ナスビー博士が無礼なことを言っても全く気にしていないようでした。一方で、若いカリフラワーの秘書は、顔を引きつらせて苦笑いをしていました。
トーガン「せっかく考えて下さったのにB案の方は採用できず、申し訳ありませんでしたな。今回は、できるだけたくさんの数のロボットを飛ばしたかったのでA案の方を選ばせていただいたのです・・・。」
マルナス「ゾンジテ・オリマス!何度もそのようなご説明をさせてしまって大変申し訳ございまセン!」
逆に、トーガン社長から気を遣われてしまい、マルナス助手は本当に申し訳ない気持ちになりました。
ナスビー「でもな~、そんな、謝るくらいだっら、A案とB案の両方頼んでくれたってよかったのに~。」
マルナス「ハカセ、いい加減にして下サーイ!!!」
マルナスの気持ちを察することなく、気にせず失言を連発するナスビー博士。マルナス助手はヒヤヒヤを通り越してもう限界!という気分でした。
そんな中「社長、お時間ですので。」と、カリフラワーの男性が会話を切り上げました。
トーガン社長「では、私たちはこれで。クリスマスイブ当日はよろしく頼みますぞ。」
マルナス「ハイ!当日のロボットの制御からモニタリングまで、全て我々に任せ下さいマセ!」
トーガン社長「頼もしいですな。楽しみにしていますぞ!」
トーガン社長はそう言い、カリフラワーの秘書を連れ、笑顔でその場を去ってゆきました。
マルナス「ふぅ・・・。なんとか乗り越えられマシター・・・。」
やっとお客様が帰り、肩の荷が降りたマルナス助手。
早速、ナスビー博士に対して文句を言います。
マルナス「もぉーーー!!!ハカセったら、あんな失礼なこと言って、もしトーガン社長の気分を害して、注文が取り消しになったらどうするんデスカーーー!!!相手は、あの『クリスマス社』の社長ですヨ!超大物の重要人物なんデスから、本当に気をつけて下サーーーイ!」
怒って勢いよく話すマルナス助手ですが、ナスビー博士は全く動じず・・・。
ナスビー「ははは。超大物だろうが、ただの冬瓜のじいさんだろ?私は世界を代表する天才発明家ナスビー博士だぞ?なあに、相手が超有名であろうと、超金持ちであろうと、関係ない!下手(したて)に出て、ナメられたら終わりだ!私は誰に対しても『対等(たいとう)』に付き合う主義なのだ。」
マルナス「・・・まあハカセの言いたいこともわかりますガ。今回はお金がかかってマスから・・・。」

相変わらず自由でマイペースなナスビー博士です。ナスビー博士は人生において一度も、会社に雇われて働いたことがありませんでした。父親の遺産があったため、学生時代もアルバイトをしなかったし、こうして今も自分の研究所で好き勝手なことをして生活しているのです。
だから、社会人としての経験がほぼなく、礼儀を知らずで子供っぽいまま、このような大人になってしまったのでしょう。
それが悪い事とも、良い事とも言えませんが、そんなナスビー博士のことをわかっているマルナス助手でも、今日は相手がトーガン社長だっただけに、とても緊張し、ヒヤヒヤしてしまったようです。
さて、一方、その頃、クリビーたちは・・・
つづく


