ハク先生はクリビーたち三人を引き連れて、院内の薄暗い廊下を進んでゆきました。
ハク先生「いやぁ〜、今週は1人も患者さんが来なくて暇でね。筋トレをしていたらこんなに筋肉がついてしまったよ。はっはっはっはっ・・・!」
クリビー「そ、そうだったんですね。」
クリビーはハク先生に合わせて愛想笑いをしながら返事をしました。愛想笑いとは、無理やり作った笑顔のことです。
モモビー「(今週は1人も来なかったって、先週は誰か来たのか・・・!?ここに行こうと思う人がいるなんて・・・)」
ネギーン「(誰も来ないとは聞いてないですから、少しは患者さんもいるんじゃないですかね・・・。)」
モモビーとネギーンがヒソヒソ話をしていると、急にハク先生は立ち止まりました。
ハク先生「この部屋が客間だ。ここで、ゆっくり話を聞こうじゃないか。」
そう言うと、クリビーたち三人を部屋の中に入れてくれました。部屋の中もやっぱり薄暗く、床は血のような赤色のじゅうたんが引かれていました。
そこには六人がけのテーブルと椅子があったので、ハク先生はそこに座るよう促してくれました。
みんな席に着くと、ハク先生はゆっくり話始めました。
ハク先生「・・・そういえば、君たち三人はよく公園で見かけるぞ。仲がいい友達同士なのだね。それは実にいいことだ。はっはっはっ・・・!」
ハク先生の表情は怖いものの、今日も機嫌は悪くなさそうでした。でも、いつ機嫌が悪くなるかわかりません。
ハク先生「君たち、ナスビー博士とよく一緒にいるだろう?あのナスビーは私と同じくらいのいい大人だが、子供みたいな奴でな。なに、ナスビーはろくに働かないで、役に立たない発明やら研究をしてるだろう?だから街の大人たちにはあまり好かれていないが、私は彼のことは一目置いているのだよ。人から軽蔑されても好きなことをやり通すというのはなかなかできないことだからね。」
・・・
なぜかハク先生は例の患者さんが少ない問題とは関係ない話ばかりをしていました。
しばらくすると、奥さんのチコリのチコさんがお菓子とジュースを差し入れに来てくれました。
ハク先生「クッキーにチョコレート、オレンジジュースだ。さぁ、遠慮なく食べたまえ。でも、家に帰ったら必ず歯磨きをするのだぞ。」
クリビー「は、はい、わかりまひた!ありがとうございます!」
モモビー「いっただっきまーす!」
ネギーン「いただきます・・・!」
クリビーたち三人は少しリラックスしてきました。ハク先生は本題をすっかり忘れているようで、そのまま関係のない話ばかりしています。
クリビー「あの、なぜ歯を磨かないと虫歯になってしまうんですか?」
ハク先生「いい質問だね。聞きたくない真実かもしれないが、虫歯の原因になる目に見えない菌がいてね、そいつらは君たちの口の中にたくさん、常に、住んでいるのだよ。」
クリビー「はい、その虫歯の菌のことは聞いたことがありますが・・・その菌たちは口の中で何をするんですか?」
ハク先生「口の中に住んでいるから、君たちが食べたごはんやお菓子の食べ残しを食べているのだ。歯と歯茎に詰まっている食べ残しに集まって、そこで食事をして、ウンコをするのだ。」
クリビー「え!ウンコを!?」
ハク先生「そうだ。その、虫歯菌の汚いウンコがたくさん歯にくっついたままだと、歯も歯茎も病気になってしまうのだ。簡単に言うと、それが虫歯の原因なのだ。」
モモビー「うぇ〜、みんな口の中にウンコがあるのかぁ・・・。」
ハク先生「そうだ。でも、毎日しっかり歯磨きをしていれば口の中は清潔にできるのだ。だから、歯磨きはとても大事なのだ。それと、自分では歯磨きをしているつもりでも、歯と歯の隙間とか、磨けてないところもある。だからときどきは歯医者に来てもらって口の中をチェックしないといけないよ。」
クリビーたちは虫歯のことや歯磨きの大切さについて詳しく説明してもらいました。
そうこうしていると、クリビーたち三人は出されたお菓子を食べ切り、ジュースも飲み切ってしまいました。
ハク先生は本題のことを忘れているみたいだし・・・クリビーたち3人はお互いに目線を送り合い、『帰るぞ!』という合図をしました。
そして、まずクリビーが立ち上がって言いました。
クリビー「ご馳走さまでした!今日は、有り難いお話をありがとうございました!」
続いて、ネギーンも立ち上がり、
ネギーン「ありがとうございました!それでは、さようなら!」
モモビーも・・・
モモビー「あざっした!またお会いしましょう!では、おれっちたちはこれで・・・」
クリビーたち三人は席を立ち、部屋を出る方向にやや急ぎ足で進みました。
ハク先生「ちょっと待ってくれ。そういえば、君たちの意見を聞いていなかったな!ささ、遠慮せず話してくれ!」
帰ろうとした三人の後ろ姿を見てようやくハク先生は本題を思い出してしまったのでした・・・。
心の中は大慌てのクリビーたち三人。
三人は同時にゆっくりと振り返って無言でハク先生の方を見ました。
ハク先生「まず、クリビー君、君はどう思うかね?」
指名されたクリビーは、震えつつ、にっこりと作り笑顔でハク先生の方に一歩近づきました。
クリビー「ええと、ですね〜・・・!(やっぱり、正直なことは怖くて言えない!もう適当にこの場を乗り切ろう!)」
ハク先生「・・・」
ハク先生は子供の意見でも真剣に聞こうとしていました。
クリビー「まず、このお城、古くて、ちょっと薄暗くて、映画に出てきそうな迫力があって、とても素敵です!!!!!」
ハク先生「おおっ!君もそう思うか!」
クリビー「は、はい!でも、その、迫力が足りません!もっとお化けとか悪魔が出て来たら、ホラー映画みたいで楽しいです!もっともっと怖い方がいいです!」
なんと、クリビーは思っていることと『あべこべ』のことを言い出しました。『あべこべ』とは真逆という意味です。
ハク先生「怖さが、足りないと・・・!?」
クリビー「そうです!ここに来たら叫びたくなるような怖い体験ができたら、遊園地のお化け屋敷みたいに行列ができると思います!」
そこに、ネギーンも調子を合わせて便乗してきました。
ネギーン「ぼ、僕もそう思います!」
そしてモモビーも。
モモビー「おれっちも、同じ意見っす!そうだな〜、ジェットコースターとか、すごく怖い、絶叫マシンみたいのがあったら、もっともっと、行列ができると思いますっ!」

三人は大胆にも大袈裟に、この歯医者さんの悪いところを更に伸ばすような適当な意見をたくさん言い続けました・・・。
すると、ハク先生は・・・

ハク先生「おおおおお〜!!!すばらしいっ!!!すばらしい意見ではないか!!!」
と、突然、大きな声で叫びながら、とても嬉しそうな表情になりました。
ハク先生「やっぱり子供の君たちの素直な意見はとても参考になるとわかったぞ。なるほどなるほど、怖さが足りないのだね!実に面白い意見ではないか。」
クリビーは心の中で思いました・・・僕たち子供だけど、素直でも何でもないし、正直な意見じゃなくてウソの意見なのに・・・。
クリビーたちの意見を信じて喜んでいるハク先生の方が純粋で素直に思えてきます。
ハク先生「お化け屋敷のようか・・・実はな、私もこの病院が老朽化していることを少し気にしていたのだ。」
モモビー「ロウキュウカ?って何だ?」
ネギーン「つまり、建物が古くなってしまったという意味ですよ。」
ハク先生「君たちに意見を言ってもらって、やっと決心がついたよ。この建物は先祖代々から受け継いできた伝統ある建築でね。でも、ここで一旦、新しく生まれ変わる必要がありそうだ・・・。」
クリビーたちや町の人にとっては、不気味でしかないお化け城ですが、ハク先生にとっては、特別な思い入れのある建物だったこと。ハク先生は少しの間だけ無言になって、そのことが伝わってくるような表情をしていました。
とりあえずその場を乗り切って肩の荷が降りた気分のクリビーたち三人でした。
ハク先生は喜んでくれて、とてもご機嫌な様子でしたが、どこか淋しそうな表情にも見えました。
ハク先生「いかん!もうこんな時間だ。さあ、日が暮れる前にお帰りなさい。また気軽に遊びに来ておくれ。」

「今日は、おじゃましました。お菓子とジュースもご馳走さまでした。さようなら!」
クリビーたち三人はハク先生と奥さんのチコさんに挨拶をしました。
ハク先生とチコさんは玄関の外まで出て来て、二人とも手を振りながらクリビーたちを見送ってくれました。
これで良かったのか、少し疑問に思うところのあるクリビーたちですが、何せハク先生本人が喜んでくれたことだし、その日は三人とも安心してスッキリした気分で家に帰ることができました。
・・・
そんなことがあってから、1ヶ月ほど経った日のこと。
ある日、クリビーは郵便受けを見ると、1通の封筒が入っていました。
クリビー「(手紙だ!・・・誰からだろう???)」
封筒の裏を見てみると、差出人(さしだしにん…手紙をくれた人)のところに『ハク歯科医院 医院長 白菜のハク』と書いてありました。あの、ハク先生からです!
クリビーは早速、封筒を空けて手紙を読んでみました。

なんと、そこに書いてあったのは・・・?
つづく


