【第25話】この町唯一の歯医者さん#3

おはなし

まるでおばけが住んでいそうな恐ろしい外観の屋敷の中・・・

白菜のハク先生は取材に来たクリビーを快く迎え入れてくれました。

機嫌がよく、笑顔のハク先生ですが、なんだかその笑顔は不気味に感じます。ホームページに載っていた爽やかな顔写真の印象とはまるで違うのでした。

・・・

ハク先生が案内してくれた特別な部屋には、彼の大切なコレクションだという、動物や魚の歯や顎の骨、剥製に模型が飾られていました。

クリビーは心の中で思いました。

クリビー「(うひゃ〜、さっきグリンピーくんが言ってた通りだ・・・!本当に歯の骨を集めているなんて!)」

ハク先生「驚いたかね?ここにあるものはすべて、なかなか手に入らない、希少なものばかりなのだよ。」

クリビー「キ、キショ〜・・・。」

ハク先生「そう、希少(キショウ)というのは、とても珍しいという意味だ。」

クリビー「は、はぁ、、、そうなんですね!」

クリビーは相変わらず調子のいい返事をしました。

ハク先生「フハハハ、私は世界中の美しい歯や美しい顎骨を探し回るのが趣味でね。」

クリビー「・・・。」

クリビーはその気味の悪い趣味の部屋が怖くて、早くこの場を去りたい気持ちでいっぱいでした。

クリビー「ううう~・・・。(早く帰りたいよ~!)」

ハク先生「おっと、そうだ!君は歯医者の取材に来たんだったな!歯医者が本業だからな、それじゃあ、診察室の方へ案内しようか・・・。」

ハク先生はそう言い、クリビーを連れて歯の骨がいっぱいの部屋を出ました。そして再びあの薄暗く不気味な廊下を進み始めました。

クリビーは考えました。

こんな歯医者の診察室ってどんなところなんだろう・・・。

想像すればするほど、恐ろしくなってきました。

それでも後に引けないクリビーです。

取材係の役割を果たすため、勇気を出してハク先生の後ろをついてゆきます。

ハク先生「さぁ、ここが診察室だ。中に入りたまえ・・・。」

長い廊下の一番奥に扉がありました。

ハク先生はその扉に手をかけ、クリビーを案内します。

クリビー「(ドキドキ・・・)。」

クリビーは怖くて怖くて、とても緊張していました。ところが・・・

ガチャ・・・

ハク先生「ここが、我が歯科医院の診察室だ。紹介しよう、私の妻で、歯科衛生助手のチコだ。」

チコ「はじめまして、こんにちは。チコリのチコと申します。よくいらして下さいましたね。」

意外なことに、診察室はとてもラブリーなお部屋でした。

ハク先生の奥さんの、チコリのチコさんも笑顔で迎えてくれました。とても優しそうな人です。

クリビー「・・・(ドテーッ!!!)」

クリビーは思わずズッコケました。

ハク先生「大丈夫か?この床は滑るのか・・・気をつけてくれたまえ。」

クリビー「す、すみません!大丈夫です。」

クリビーは起き上がってそう返事をしました。

ハク先生「さあ、何でも聞いてくれたまえ。質問はそのメモに書いてきたのかな?」

クリビー「はい!そうです、では早速お願いします。」

こうして、クリビーは歯医者さんへのインタビューを始めました。

ロコロコとグリンピーと一緒に考えた質問を、メモの上から順に聞いてゆきます。

クリビー「なぜ、歯医者さんをやろうと思ったのですか・・・?」

ハク先生「それはだね、私の父も、この場所で歯医者を開業していたのだよ。それで私も父の仕事に憧れてね、この歯科医院を引き継ぐことにしたのだ。」

クリビー「なるほど、お父さんも歯医者さんだったんですね!」

ハク先生「そうなのだ。腕がよく、評判のいい歯医者だったと聞いている。今も私は父のような歯医者を目指しているのだ。」

クリビー「・・・そ、そうなんですね!」

腕がいいというのは聞いているけど、評判はちょっと・・・と心の中で思ったクリビーでした。

クリビー「では、次の質問です。どうしてお城のような外観の建物にしたのですか?」

ハク先生「ああ、この屋敷はね、先祖代々から受け継いでいる土地と建物なのでな。現代ではあまり見なくなった古い造りだが、これもわが家の伝統としてできるだけ残したいと思ってな。」

クリビー「はぁ~、そうなんですか!」

伝統的な建物を残したいというハク先生の想いを知ったクリビー。

確かに、古いものを大切にする気持ちは共感できました。

それにしても、どうしてこんなに薄暗く悪趣味な雰囲気にしているのか・・・そのことはなぜか聞きづらく、他の質問を進めるクリビー。

こうして、どんどん取材がはかどっていきました。

・・・

クリビー「それでは、最後の質問です。」

ハク先生「よかろう、最後に、何が聞きたいのかね?」

クリビー「これは、僕が考えた質問です。ハク先生は、歯医者をしていて、困っていることはありますか?また、お仕事で、大変なことを教えて下さい。」

ハク先生「ふ~む・・・そうだなぁ。」

ハク先生は腕を組んで少し考えはじめました。

奥さんのチコさんはハク先生の後ろで、クリビーのインタビューの様子を微笑んで見守っていました。

ハク先生「今、一番困っていることはな、患者さんが少ないことなのだ。大変なことといえば、我が歯科医院に来たことがない人に来てもらえるような方法を考えることだな・・・。一度、来てもらえれば、私の腕のよさを知ってもらえるのだがな。」

そう答えたハク先生に、クリビーは・・・

クリビー「・・・(そりゃそうだよ!)」と思いました。

こんな恐ろしい見た目の歯医者さんに誰も行きたいと思いません。すごく当たり前のことですが、ハク先生は患者さんが来ない原因が全くわかっていないようでした・・・。

ハク先生「クリビー君だったね、君はどう思う?」

クリビー「え!?」

ハク先生「いやね、子供の素直な意見もぜひ聞いてみたくてね。なぜ患者さんが少ないと思う?もっとたくさんの人に来てもらうにはどうしたらよいと思うかね?」

クリビー「ひえ~・・・っと。」

クリビーは『そりゃそうだよ!』と言いたい気持ちが喉まで上がって来ていましたが、ハク先生の低い声と大きな体がとてもとても恐ろしくて正直な意見が言えませんでした。

ハク先生「・・・まあ、君に聞いても難しいか。気にしないでくれたまえ。」

クリビー「いえ!ちょっと待って下さい!」

本当に困っていそうな様子のハク先生を見て、クリビーはとっさにそう答えました。

そして、こう言いました。

クリビー「僕、そのお悩み、真剣に考えてみます!少し時間を下さい!」

ハク先生「おお!本当か。それは頼もしいな!期待しているぞ。」

ハク先生は明るい顔でそう返事をしてくれました。

と、言うものの、まあ子供がそう無邪気に答えてくれているということを微笑ましく見ているだけで、本気に期待しているわけではない・・・ということを感じ取っているクリビーでした。

ハク先生「おっと、もうこんな時間だ。気をつけて帰るのだぞ。」

クリビー「はい、今日はお時間をいただき、ありがとうございました!」

チコ「あらあら、とても丁寧なあいさつができるのね。また遊びにいらしてね。」

最後にクリビーが挨拶をすると、チコさんから褒められました。

クリビー「はい!また来ます!それでは!」

こうして、クリビーはハク歯科医院を後にしました。

取材を記録したメモを大切に持って、その日は真っすぐに家に帰りました。

・・・

それから1週間後、クリビーたちの学校にて。

社会の授業では、例の宿題の発表会がありました。

ロコロコの提案がきっかけで、それぞれ役割分担をして宿題をやった成果もあり、クリビー、ロコロコ、グリンピーの3人のグループ発表は大成功しました。

クリビーがメモしてきた取材の記録を元に、ロコロコが発表用の張り紙や、レポートをまとめました。それを、グリンピー君が発表しました。やはり、ロコロコは勉強が得意というのもありますが、発表のための資料を作るセンスもよいのでした。グリンピーくんは堂々とした性格なので、緊張せずに自信満々で、みんなの前で発表することができました。

もちろん、クリビーが頑張って取材をしてくれたおかげで、グループ全体でよい成果となりました。クリビーの勇気と頑張りがなければ、ここまでの成功はなかったでしょう。

マーメ先生に褒められ、他のクラスメイトからも一目置かれたクリビーたちでした。

・・・

その日の学校の帰り道です。

クリビーは1人、いつもの帰り道を歩いていました。

今日は発表が上手くいって先生から褒められ、クラスのみんなから感心されたクリビー。

満足感でいっぱいのはずが、なんだかモヤモヤしていました。

クリビー「(これで大変な宿題は終わったけど・・・。)」

なにやらクリビーには思い残すことがありました。

その後、クリビーは一度帰宅した後、いつものように、仲の良いモモビーとネギーンと公園で遊ぶ約束をしていました。

わーい、わーい!

モモビー、ネギ―ンはいつも通り、元気いっぱいで公園のアスレチックを走り回っていました。

ネギーン「あれ?クリビー、どうしたんでしょう?」

まず、ネギーンがクリビーの様子がおかしいことに気づきます。

続いて、モモビーもクリビーを気にします。

モモビー「あいつ、どうしたんだ?」

クリビーは公園の木製の遊具の高台にひざをかかえて、ちょこんと体育すわりで座っていました。

どこか上の方、一点を見つめて、上の空な様子です。

なにかずっと別のことを考えているようです。

モモビー「おーい、クリビー!なにボーッとしてんだよ!」

ネギーンとモモビーはクリビーの方に駆け寄って来ました。

クリビー「あ、二人とも、ごめんごめん。」

ふと我に返ったクリビーは、座っていた遊具の上からピョンっとジャンプして地面に降りてきました。

ネギーン「大丈夫ですか?どこか、具合でも悪いんですか?」

クリビー「ううん、違うんだ。実は、ちょっと考え事があって・・・」

クリビーは今モヤモヤと悩んでいたことをモモビーとネギーンに打ち明け、話し始めました。

つづく